どこのケチャッを観ても、説明書をもらって読んでも、今ひとつよく分からないこの物語…。誰が良い奴で誰が悪い奴なのか、その前に女か男かさえ分からない…。そこで今回は、ケチャッに代表される物語を分かりやすくご披露しましょう。結構、細かい心情の揺れがあって、改めてフ〜ンと思える内容なんですね。解説はブラキウ村のケチャッに沿ったものです。
この話、最終的には悪の大元は退治されないのです。つまり、善と悪は永遠に戦い続けるという何とも納得のいかない結末です。でも、それがバリ。善と悪・白と黒・大と小・男と女・…二つのパワーがあって良し (これをバリではルワビネダと呼ぶ)という宗教哲学があるからなんですね。バリでは勧善懲悪の「水戸黄門」ははやらない、というわけです。善悪の判定をするのは、裁判官でもなく、警察でもなく、神様のみ。神様は見えてないと思っても必ず見ている。輪廻転生を信じるバリで悪いことしたら、次の生まれ変わりで動物とか虫になってしまうかもしれません。
これは、警察につかまるより怖いでしょう。バリ島、なかなか深いです。では、始まり、始まり!

ラーマヤナ物語より「さらわれるシータ」の章 
あらすじ

登場人物紹介
<ラーマ軍/善>
vs
<ラワナ軍/悪>
 
 
ラーマ
王子

思いやりのある
やさしい夫

ラワナ
魔王

美しい人妻シータを
狙っている

 
シータ
ラーマの妻

夫に尽くす美しい妻
トゥリジャタ
ラワナの姪

囚われたシータに好意的
 
ラクスマナ
ラーマの弟

兄夫婦を守ろうとする
誠実な弟
メガナダ
ラワナの息子

横柄な態度で威圧的
 
ハノマン
猿の将軍/白猿

猿の王スグリワの部下
ダレム
メガナダの御伴

バリ劇の道化役・
赤面・臆病者
 
スグリワ
猿の王/赤猿

戦いの象徴・正義の味方
キジャン
 
ジャタユ
鳥の王者

ガルーダ・バリ三大神
ウィスヌ神の乗り物
   
トゥアレン〈ラーマの御伴〉
バリ劇の道化役・黒面
   


あらすじ

はじまり:
ケチャッダンサーに聖水をかけ、お清めの儀式



第一幕
森の中。若い王子・王妃の小屋の近く。愛し合う二人の舞。
黄金の鹿(魔王の化身)登場。
森での生活に退屈し始めたシータ。魅力的なその鹿を捕らえてペットにしたい、生け捕りが無理なら毛皮だけでも取ってきてほしいとだだをこねる。(この時シータは既に魔物の魔法にかかっている。普段のシータらしくない)泣きながら懇願するシータに困り、しかたなく承知するラーマ。
ラクスマナ登場。
鹿狩のための弓矢をラーマに渡す。ラーマは、残った妻の安全を弟に託して森へ向かう。
鹿を追って深い森に入ってしまったラーマ。生け捕りにできそうもないので、諦めて矢を放つ。そのとたん、鹿は魔物になり、ラーマとそっくりの声を出して叫ぶ。

第二幕
小屋で待つシータとラクスマナ。
どこからか、ラーマの助けを求める叫び声を耳にするシータ。
ラクスマナに様子を見てくるように言いつけるシータ。ラクスマナには、黄金の鹿が魔物の化身だと初めから分かっている。兄ラーマの力を信じているので心配していない。兄嫁の指示を拒否するラクスマナ。何よりシータを一人で残していくことを恐れているのに、シータはラクスマナが拒否する理由は、兄を見殺しにして自分が兄嫁と結婚したいためだろうと勘ぐって怒り出し、ラクスマナを責め口論になる。正気の沙汰ではないと思いながら、自分の潔白を証明するためにシータの言いつけに従わざるを得なってしまう。出かける前に、シータの身を守るため、シータの周囲におまじないの「火の輪」を描いていく。(ダンサーは内側・外側を向いてシータを囲んで火の輪を表現)一人ぼっちになってしまったシータ。

第三幕
魔王・ラワナ登場。
まんまと自分の思惑にはまったラーマ・ラクスマナ・シータ。このチャンスに美しい人妻・シータをさらっていきたいラワナ。しかし、近づきたくても火の輪があって中に入れない。ラワナは魔法を使って火の輪を破って中に突入する。逃げ惑うシータを捕らえ王国に連れ去る。ラワナの宮殿。シータ略奪に成功し、喜びにうかれて踊るラワナ。

間:ケチャッダンサーのみ


第四幕
白猿・ハノマン登場。
ラーマから依頼を受け、シータを探している。空を飛び、海を越え、魔王の王国へと向かう。
魔王の森。シータと魔王の姪・トゥリジャタ登場。囚われの身となり嘆き悲しむシータ。
トゥリジャタは、そんなシータを慰め、元気付けている。必ず助けがくることを信じ、二人で神に祈る。
その様子を隠れて見ているハノマン。突然、目の前に現れた白い猿に驚くシータ。
ラワナは、なかなか自分を受け入れないシータに、あの手この手で誘惑を試みているので、今度はラワナは猿にでも化けて近づいてきたのではと疑っている。疑惑の目を向けるシータにハノマンはラーマから預かってきた指輪を差し出す。それが間違いなく愛する夫の物と確認したシータは、逆に自分の髪飾りをハヌマンに預け、無事でいることを伝えてほしいと頼む。シータとトゥリジャタは安全な場所に匿われる。
ハノマンにとってこの場所でシータを背負って連れ出すことは簡単だが、それをあえてせずにシータの居場所をラーマに報告するために一旦もどるのは、敵を倒してから捕虜(シータ)を取り戻すという戦いの掟に従うためである。しかし、ハノマンはここを去る前にひとあばれしないと気がすまず、(ダンサーは壊れ行く都と魔王の手下を表現している)そのうちラーマ軍がせめてくるぞと言い捨てていく。魔王の都を脅かすことに成功したハノマンは、意気揚揚として都を去る。

第五幕
ラーマ、ラクスマナ、トゥワレン登場。
ハノマンからの知らせを聞き、戦いの準備をしハノマンの猿の軍団を伴って、ラワナの王国へ向かう。途中、魔王の息子・メガナダとその御伴・ダレムが現れ、ラーマ達を罵り、魔法の矢を放つ。
すると、その矢は大蛇の姿となり、ラーマとラクスマナに巻きつき二人は身動きが取れなくなる。嘆き悲 しむトゥワレン。成すすべもなく、ただただ祈るだけ。突然、、空から大きな羽ばたきとともに、鳥の王者・ジャタユ登場。
大蛇を粉々に食いちぎってまた空へと消えていく。
ジャタユの助けを得て、安心した一行は再び戦いの旅をつづける。猿王・スグリワ登場。応援に駆けつけたという。
スグリワとメガナダの戦い。
(ダンサーは左右に分かれ、猿の軍団とラワナ軍を表現)
なかなか、決着がつかない。
最後にラーマがメガナダに向かって放った矢が命中し、メガナダが倒れる。ハノマンに導かれ、シータとトゥリジャタ登場。
ラーマはここで、最愛の妻シータと再会する。

終わり:ケチャッダンサーとその場にいる登場人物が合掌し、舞台は終了。


物語解説・挿絵 : Eriko Sawaki